「太陽曰く燃えよカオス」と「to the beginning」ーー2012年春のアニソン(前編)
2012年4月から6月のアニメソングをオタクな妻との対談形式で振り返ります。
今回は2つに分割しており、この記事は前編になります。
私:そろそろ春アニメが終わりますね。まずはこの2012年春の3ヶ月を振り返っていかがでしたか?
妻:キャラソンにまた新たな金字塔が打ち立てられたね。
私:「這いよれ!ニャル子さん」のオープニング「太陽曰く燃えよカオス」ですよね。今期のキャラソンといえば何といってもあの曲でしたね。
妻:そうね。この曲はすごかったけれど、それを除けばキャラソンは不作だったかな。むしろ、今期はキャラソンではなくて、アニメの主題歌を主な活動の場にしているアニソンアーティストの底力を感じた3ヶ月だったと思う。
私:そういう意味では、まずはKalafinaが歌った「Fate/Zero」の主題歌「to the beginning」ですよね。
妻:そうだね。今期を代表するのはこの「太陽曰く燃えよカオス」と「to the beginning」だろうね。
私:間違いないですね。
妻:それから、アニソンアーティストの曲としては、ジャンプアニメ「黒子のバスケ」のオープニングでGRANRODEOが歌う「Can Do」が秀逸だった。エンディングでヒャダインが歌う「Start it right away」も良かったよね。
私:私は乙女ゲー原作の「緋色の欠片」のオープニングで藤田麻衣子の「ねえ」とか、桃井はる子による「非公認戦隊アキバレンジャー」のテーマ曲に唸りましたよ。
妻:やはりアニメやゲームで活躍してきたアーティストの活躍が目立ったという印象だね。
私:そして、前回の3ヶ月前に我々が注目していたのは、菅野よう子さんが再びジャズを題材にした作品に取り組んだ「坂道のアポロン」でした。
妻:オープニングの「坂道のメロディ」良かったね。管野よう子の曲をJUDY AND MARYのYUKIさんが歌うとは。
私:あの作品は、菅野よう子のオープニングとエンディングも勿論良かったんですが、ジャズミュージシャンによる演奏シーンが神がかってましたね。
妻:ジャズといえば「Lupin the Third 峰不二子という女」のあのオープニング・テーマも何だかすごかったね。
私:まさかの菊地成孔が作曲した「新・嵐が丘」ですね。何かを語らずにいられない作品でしたね。この二作品において、日本のアニメがジャズとの間で不思議な邂逅を遂げた3ヶ月でもありました。
妻:そういえば、3ヶ月前に楽しみだって言ってた「AKB0048」はどうだったのよ。
私:うーん。なんとも一言では言い表せない作品ですが、色々と考えさせられるものはありましたね……。
まあ前置きはこのぐらいにして、早速一つずつ振り返ってみることにしましょうか。
奇跡のメディアミックス「太陽曰く燃えよカオス」・クトゥルフ神話から生まれたキャラソンがTwitterで拡散する日本
私:まずは「這いよれ!ニャル子さん」の主題歌で「後ろから這いより隊G」が歌うキャラソン「太陽曰く燃えよカオス」ですね。中毒性の高い「うー」「にゃー」は人々の心を掴み、AA化されてTwitterや2ちゃんねるで流行したことがニュースにもなりました。
妻:(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー! よね。このAAも秀逸で、あの異常に耳に残る冒頭部分に絶妙にマッチしているのよね。
私:ちゃんとニャルラトホテプを元ネタとして踏まえ、あの意味不明ながらもテンションの高い唸り声はすごいですよね。
妻:「這いよる混沌」を電波に表現してみせたキャラソンの名作というべきよね。
この曲の中毒性は本当にすごくて、家で流れるたびに、うちのもうすぐ2歳になる我々の娘も「うー、にゃー」って言っているからね。
私:パパとしては、あれを聞くたびに萌え死にそうですよ。
妻:作曲した田中秀和さんは、神前暁さんも所属している事務所のMONACA人なのね。
私:またキャラソン界で新たな才能が花開いた感じですよね。最近のMONACAいいですよね。
妻:劇中歌で使われていた「黒鋼のストライバー」も劇中作品のネタにしておくのは惜しいぐらいの曲だしね。昨年の「WORKING!!」の二期のOP/EDも良かった。
私:神前さんだけじゃなくて、MONACAという事務所としてもこれから注目していきたいところですね。
妻:話をニャル子さんに戻すと、そもそもニャルラトホテプが萌えキャラになるのってどうなのよ?
私:私も詳しくないんですが、クトゥルフ神話で「数多の化身をもってあらゆる時間、空間に顕現する」とされている邪神らしいですからね。
妻:そうだとすると、現代日本でアホ毛をつけた萌えキャラとして顕現してもそんなに間違いではないのか…。
私:むしろそんな展開が全然ありなところがクトゥルフ神話の偉大さなのかもしれないですね。さすが戦前から二次創作されてきたクトゥルフ神話の懐の深さというべきでしょうか。
妻:今回、クトゥルフ神話のニャルラトホテプが日本のライトノベルで萌えキャラになり、アニメ化を期にキャラソンが生まれ、AAになってTwitterで拡散してニュースになったということよね。
私:壮大すぎるメディアミックスですよね。なんだかこれは文化的な事象としてすごいと思いますね。
妻:ラヴクラフトもきっとびっくりな展開よね。
私:畑亜貴さんの歌詞も素敵でした。この春、金環日食や金星の太陽面追加に沸く日本にあって、歌詞の中で「太陽なんて眩しくって、闇のほうが素敵」と言い切っていましたからね。
妻:まあ、ラブクラフトの見つめた人間の闇が長い時間をかけて電波ソングに昇華したこの奇跡のメディアミックスは、ある意味金環日食よりもすごい出来事だったのかもね。
私:先週の「めだかボックス」の最終回の中で、西尾維新が脚本を書いて、登場人物に「メディアミックスのためのメディアミックスが横行するアニメ業界みたいな」と語らせる場面があったんですが、そんな日本のアニメ業界において真のメディアミックスを体現してみせた作品として、アニソンの歴史に刻まれるべき一曲だと思いますね。
梶浦由記が虚淵作品に捧げた最高傑作「to the beginning」・音楽だけで死亡フラグに聞こえる名曲達
私:アニメ「Fate/Zero」が昨晩最終回を迎えましたね。昨年放送分とあわせて、この6ヶ月間、本当に楽しませて頂きました。
妻:アニメファンとして幸せな6ヶ月だったね。
設定と結末が本編に縛られている中で、前日譚を膨らませてあれだけの物語を作る虚淵さんがすごいですよね。
私:本編と矛盾のない範囲で、その設定を過剰に深読みして本編を凌駕した物語を作るという感じでしたよね。奈須きのこさんの元ネタに対する、虚淵さんのストーリーテラーとしてのプライドをかけた戦いのように感じましたよ。
妻:昨晩は、あんなにバッドエンドなのに何だか清々しい最後だったね。
私:ギルガメッシュなんて全裸で何だかすっきりした様子でしたからね。
ラストもそうだと思いますが、私がこの作品ですごいと思ったのは、他では後味が悪くなりそうなストーリーがやけに清々しいんですよ。
ランサー陣営が主人公の陰謀によって非業の最期を迎える回すら、何度も見返すような見事さがありました。
妻:この作品自体が、端的に言ってしまえば、主人公が多大な犠牲を払って達成しようとした妄想が裏切られて終わる救いのない物語だからね。
私:みんなが何かしら歪んだ信念を持っていて、それを各々が勝手にめいいっぱい貫き通した上で、それ相応の報いを受けてカタルシスを得るという、虚淵さん流のブラックな清々しさを生む構図が見事なんだと思いますね。
妻:虚淵さんの脚本の面以外でも、この作品がこの異常に高いクオリティでアニメとして描き切ったところがすごかったね。剣と魔法のファンタジーなのに、カーチェイスからドッグファイト、大軍勢による戦場シーンまで貪欲に盛り込まれすぎた要素を神がかった作画で対応しきっていたからね。
私:地上波のアニメでこの品質を実現できたことが既に奇跡ですよね。日本のアニメ文化って本当にすごいと思いましたね。このクオリティの作品が地上波のテレビで深夜に流れている日本アニメのレベルの高さは、国民として素直に誇らしいですよ。
妻:また、この学園ものと萌えキャラアニメが全盛の時代に、登場人物のこの年齢の高いおっさんばかりのアニメでここまで売れるのもすごいね。
私:あのライダーの完全なおっさんキャラが、反則的なかっこ良さでしたからね。
妻:まあ、私にとってこの話は、ライダーのマスターだったウェイバーが、ライダーに向かって「僕はあなたの臣下だ」と泣きながら叫ぶ結末に向けて、6ヶ月間をかけて壮大にデレる過程を描いた物語だったとみているよ。
私:その二人を語りだすと長くなりますけどね…。
まあFate/Zero自体を語り出すと収集がつかないので、そろそろ本題のアニソンに入ることにしましょうか。
妻:そうね。
私;前クールとは違って、2期目の主題歌はすべて梶浦由記さんが作曲を手がけてた3曲「to the beginning」「空は高く風は歌う」「満天」でしたね。
妻:どれも良かった。ただ、やっぱりこの作品を代表するのは「to the beginning」だね。
私:そうですね。ただ初めて聴いた時には、正直ここまで胸に響く曲になるとは思っていなかったんですよね。
妻:昨年放送された1クール目の名曲「oath sign」と比較して、そこには及ばないかという印象だったよね。それがじわじわといい曲に思えてきてね。Kalafinaの厳しく重厚なコーラスが作品世界とあっているのよね。
私;そうなんですよ。作品において死体が積み上がっていくのにあわせて、あのコーラスが持つ意味の重みが増してくるんですよね。
妻:確かに死にゆくキャラたちを高らかに葬送するかのような、そして裏で沢山の人が犠牲を払っても突き進む厳しさを表現したような楽曲だよね。
この楽曲に説得力を与えているKalafinaの分厚いコーラスはJamProjectと並んで日本アニソン界の宝だと思うよ。
私:1クール目で「oath sign」の作曲を手がけている渡辺翔さんと梶浦さんが主題歌を書き分けるのは、「まどか☆マギカ」に続いて二作目になるんですよね。
「まどか☆マギカ」においては、あの作品を代表する曲は渡辺翔さんの「コネクト」の方だったのではないかと思うんですよ。
妻:まあ、あの曲は作品における最大の仕掛けと絡めた神曲だったからね。
私:そして今回、Fate/Zeroの1クール目で、その渡辺翔さんが手がけた「oath sign」がかなりのヒットを収めたじゃないですか。
妻:うん。あれは神曲と言って間違いないと思うよ。
私:私はそこで梶浦由記さんのプライドに火がついたんではないかと勝手に邪推しているわけです。「to the beginning」は、劇伴を含めて手がけた梶浦さんが、この作品にあるべきテーマソングについて、全力をかけて出した答えだったように思いますね。
妻:Fate/Zeroにおけるテーマ曲という聖杯をめぐる戦いということかしらね。まあ、あえて甲乙をつける必要はないと思うけどね。
私:そうですね。1クール目が「oath sign」、2クール目が「to the beginning」。まさにこの歴史に残るべきアニメに相応しいアニソンだったと思いますね。
私はこれまで梶浦由記さんの曲って今ひとつピンときていなかったんですが、この作品で梶浦由記の良さに開眼して、ついに我が家のiTunesに梶浦由記プレイリストが出来ましたね。
妻:私は梶浦由記の曲って聴くとどれも同じ曲に聞こえると前から思っていたんだけど、改めてプレイリストにまとめて聞くと、その楽曲の統一感がすごいよね。
私:あのプレイリスト重いですよね。
ある日、PCで子どもの写真のスライドショーを見ているときに、梶浦由記のプレイリストを流してると、なんだかとても悲しい気分になりましたよね。
妻:そんなことがあったね。なんか梶浦由記の曲が流れているだけで、楽しかった思い出が永遠に損なわれてしまったような雰囲気が漂ったよね。
私:うちの子は別に今のところ何の問題もなく元気にしているんですけどね。
そこで気づいたんですが、梶浦由記さんの曲って、その音楽だけで既に死亡フラグなんだと思うんですよ。
妻:なるほど、音楽だけで死亡フラグと。そんな梶浦由記と虚淵玄は最強の死亡フラグコンビというべきなのかもしれないね。
私:そうですね。ファンとしては、この二人が手を組んだ作品をもっと見てみたいですね。是非これからも日本アニメの暗黒面を支えていっていただきたいと思います。