「イクシオンサーガDT」のアニソンを絶賛するーー2012年秋〜2013年冬のアニソン②

2012年10月から2013年3月までのアニメソングをオタクな妻との対談形式で振り返る記事・その2

 

 

私:2012年10月〜2013年3月までの半年間で、我々がアニソン的に最も輝いていたと考える「イクシオンサーガDT」について語りたいと思います。

私はこの作品のアニソンは、日本のキャラクター文化の生んだ奇跡だと考えているわけなんですが、まずはアニソンの前に、アニメ作品としての「イクシオンサーガDT」について触れたいと思います。

これはカプコンのオンラインゲーム「イクシオンサーガ」のメディアミックス作品だったんですが、元のゲームの世界観なんて殆ど無視した、割り切りの良さが光る良作でしたね。

 

妻:そもそもベータテスト中のオンラインゲームが原作って無理があるもんね。オンラインゲームの名を借りた、ただのキャラアニメになっていたよね。

 

私:監督の高松信司さんと脚本の大和屋暁さんはアニメ「銀魂」を作ったコンビですからね。あの不条理なギャグアニメのセンスが、本作でも遺憾なく発揮されていました。

 

妻:ゲームのプロデューサーがインタビューの中で、「アニメは煮るなり焼くなり好きにしてください」と言って二人に頼んだと語っていたからね。カプコンもかなり冒険した感じよね。

 

私:二人の主要キャラが、童貞を捨てたい主人公「DT」と、主人公にタマを潰されて復讐に燃えるライバル「ED」ですからね。

 

妻:完全に下ネタよね。基本的には、その二人を始めとした豪華声優陣が演じる濃いキャラクター達が、様々な形で変態性を競うという形で物語が進行するのよね。

 

私:エンディング・テーマの歌詞に「安全なものほどつまらない」という言葉が出てくるんですが、まさにそれを地でいっていたアニメだと思います。

 

妻:確かにそんなアニメの「突き抜けた割り切り」とでもいうべきものがあの優れたアニソンを生んだ背景にあるのは間違いないね。

 

私:そうですね。ではその本題のアニソンに話をすすめたいのですが、まず度肝を抜かれたのは、その主題歌でゴールデンボンバーと声優陣がコラボしたユニット「ゴールデン・イクシオン・ボンバーDT」が歌う「DT捨テル」と「レッツゴーED」でした。 

DT捨テル

DT捨テル

  • ゴールデン・イクシオン・ボンバー DT
  • Anime
  • ¥250
レッツゴーED

レッツゴーED

  • ゴールデン・イクシオン・ボンバー DT
  • Anime
  • ¥250

 

妻:昨年の10月からのアニメでゴールデンボンバーを起用したというのが、タイミング的にすごいよね。

 

私:ちょうどブレイクするところですからね。

正直私は去年の暮れまで、その存在を知らなかったですからね。それまでは「女々しくて」を「まんべくんが踊っていた曲」としてしか認識していませんでしたよ。

 

妻:少し前に遊戯王の主題歌を歌っていたんだけどね。

 

私:アニソンファン的にはそこなんですか……。

 

妻:チェック不足だね。それどころか、ずっと「イクシオンサーガDT」を見ていたのにも関わらず、昨年末に紅白出場が決まったあたりで私に言われるまで、これをゴールデンボンバーが歌っていることに気づいてなかったもんね。

 

私:そうなんですよ。存在が私の中で結びついていなくて、それまでは何だか突き抜けた歌詞のアニソンがあるなあとしか感じていなかったですからね。

アニソンで紅白効果を実感したのは初めてでしたよ。

 

妻:まあ、あの歌詞がすさまじかったのは確かよね。それぞれ、ゴールデンボンバーの「元カノ殺ス」と「レッツゴーKY」という曲の替え歌なのよね。

 

私:主題歌が替え歌っていう時点で、改めて考えるとすごいですけどね。

 

妻:アニメ的にもアーティスト的にもね。あの歌詞は、そのままではテレビに流せないから無理やり別の言葉にルビを振っていることにしているのよね。

 

私:サビの「僕にDT捨てさせてよ 右手とサヨナラさ」という歌詞は、テレビ上では「僕に戦士の称号捨てさせてよ 主君の右腕と決別さ」と書かれていましたからね。

 

妻:あれって、けっこう原曲の歌詞を活かして、しっかりと替え歌になっているのよね。

 

私:そうなんですよ。「元カレ殺ス」で「どうしてだろう 君を知れば知る程に 僕はもうアイツが憎くなる」という歌詞に対して、「DT捨テル」では「どうしてだろう 君を知れば知る程に 僕はもうアイツが硬くなる」ですからね。

 

妻:その歌詞もテレビ上の表現は「どうしてだろう 宿敵と対決すれば対決するほどに 僕はもうアルマギアが戦闘状態になる」だもんね。

 

私:「アルマギアが戦闘状態になる」を「アイツが硬くなる」と読ませるのは、イクシオンサーガの世界観への冒涜と紙一重な気がしますけどね。

下ネタな歌詞を無理やりゲームの世界観を表す言葉に変換し、あの作品のアニソンとして成立させるという荒業は見事でした。

 

妻:「レッツゴーED」の「ED」をあの意味でエンディングテーマに使うというのも、おそらくアニソンの歴史において最初で最後になるような気がするね。

そして、私がすごいなと思ったのは、なんだか2曲とも、原曲よりもいい曲なのよね。

 

私:そうですね。あのアニメの世界観と曲が融合しすぎていて、もうあの2曲は脱童貞を願う心の叫びと、タマを失った男の悲哀と復讐心の歌にしか聞こえないですよね。

替え歌が原曲の凄さを超えてくるあたりが、ゴールデンボンバーというアーティストのすごさのような気がします。

 

妻:というと?

 

私:もともとゴールデンボンバーってエアバンドとして、バンドをキャラとして演じている存在じゃないですか。

そもそも、この音楽業界衰退が叫ばれる中で、昨年最もブレークしたアーティストがインディーズの「エアバンド」だということは、優れて批評的な意味を持っているんじゃないかと思うんですよ。

 

妻:昨年末までゴールデンボンバーを知らなかった割りに、わかったようなことを言うのね。

 

私:そんな彼らが、自らのオリジナル曲の替え歌をアニメに提供して、原曲を超える良さを発揮するって、何かすごいものがないですか?

 

妻:なるほど。そういう意味では、2クール目に入ってから、歌うのすらゴールデンボンバー鬼龍院翔さんじゃなくて、声優の江口拓也神谷浩史バージョンになったよね。

 

私:「DT捨テル(紺Ver.)」と「レッツゴーED(エレクVer.)」ですよね。

DT捨テル(紺Ver.)

DT捨テル(紺Ver.)

  • ゴールデン・イクシオン・ボンバー DT
  • Anime
  • ¥250
レッツゴーED(エレクVer.)

レッツゴーED(エレクVer.)

  • ゴールデン・イクシオン・ボンバー DT
  • Anime
  • ¥250

 

妻:あれにいたっては、声優さんの歌が鬼龍院さんのそれを超えているような感じなのよね。ヒロCってあんまり歌の得意なイメージではないけれど、イクシオンサーガのキャラソンに関しては神がかっていたよね。

 

私:歌唱力というよりは、キャラソンという特性ゆえの素晴らしさなんでしょうね。

これってすごいことじゃないかと思っていて、整理すると、エアーバンドであるゴールデンボンバーがオリジナル曲を替え歌をキャラソンとしてアニメに提供し、それを自ら歌うことすら途中でやめてキャラに歌わせるという、オリジナルが何重にも「キャラ」に代替されながら、そのたびに良いものになっていくという構造があるんですよね。

 

妻:それって狙ってやっているものなのかな。

 

私:どこまで意図したものかはわからないですが、ゴールデンボンバーの昨年末のあそこまでのブレークは予測できなかったと思うので、その意味では、ゴールデンボンバーという存在と、アニメのキャラソン文化のコラボレーションによって生まれた、日本のキャラクター文化の奇跡だと思います。

そういう意味では、この曲はメッセージ性をもったアート作品として捉えても秀逸だと思いますね。

 

妻:大げさに言ってみたね。

 

私:鬼龍院さんはゴールデンボンバーのブームが過ぎたらぜひアニソンの世界に来てほしい才能ですね。

 

妻:確かに鬼龍院さんの作るキャラソンはもっと聴いてみたい気がするね。

でも、イクシオンサーガのアニソンのすごさは、そんな二曲に留まらないところにあるのよね。

 

私:そうですね。物語の終盤の19話になって、唐突に始まったキャラソン回はレベルが高すぎてビビりましたよね。

 

妻:鈴村健一の歌う「バツイチ」は、かっこいいロックな曲調にバツイチの現実をのせた歌詞が秀逸な曲だったね。

バツイチ

バツイチ

 

 

私:離婚して家を出る日に、何も知らない娘から「いってらっしゃい」って言われるやつですよね。脚本を書いた大和屋暁さんの歌詞が素晴らしすぎました。女たらしキャラのシビアすぎる現実を切り取っていましたね。

 

妻:「新婚さんに何を歌わせているんだ」ってファンの声が上がっていたけど、鈴村健一の新たな境地を切り拓いたと思うね。

 

私:ああいう題材がかっこいいロックとして歌い上げられるところがキャラソンの面白さですよね。

私は神谷浩史の「◯◯たま」に惚れましたね。タマと自尊心を失った苦悩を描く大和屋さんの歌詞もよかったんですが、このアニメでは、やしきんさんの才能を改めて認識させられました。

○○たま

○○たま

 

妻:最後の数話でエンディングに使われていた「Stand UP! ED」も良かったもんね。あの曲を考えても、やっぱり結局このアニメの主役は神谷浩史だったと思うね。

 

私:この作品では神谷浩史のアニソンの歴史に刻まれるべき曲が生まれましたよね。

 

妻:オカマキャラを務めた福山潤の「どっちつかずのダイナマイト」も忘れてはいけない名曲だね。

 

私:本作におけるじゅんじゅんのオカマキャラは本当に素晴らしかったですよね。見ているうちに、全く違和感がなくなっていくんですよね。

 

妻:この作品のヒロインと呼ぶにふさわしかったよね。あの曲は、そんなあの女声と男声を使い分ける福山潤の魅力を余すところなく発揮した名曲だったね。

 

私:杉田智和の歌う「Mの歌」も良かったですよ。私はこの歌を、昨年の杉田のキャラソン最高傑作である「SM判定フォーラム」のアンサーソングとして捉えるべきではないかと考えていますよ。

 

妻:最近の杉田智和は、キャラソンの世界において外せない一ジャンルとしてその地位を確立している気がするね。

 

私:この作品は、そもそもがストーリーなんてどうでもいい感じのキャラアニメだったので、そのキャラを活かしたキャラソンが素晴らしかったですね。オンライゲームという本来はキャラクターが不在の作品のメディアミックスが、濃密過ぎるキャラだけで成立しているアニメだという逆説がすごいですね。

ゴールデンボンバーとのコラボも含めて、現代の日本のキャラクター文化が生んだ奇跡の作品だったと思っていますよ。

 

妻:私としては、カプコンがその資本力を活かして、自分のゲームの世界で「銀魂」を作らせたっていう感じを受けるけどね。

 

私:身も蓋もない言い方をしましたね。

まあメディアミックスにかけては、バイオハザードをハリウッド映画で成功させるような企業ですからね。「イクシオンサーガDT」はメディアミックスの突き抜けた先進事例として歴史に残るべき作品ではないかと思います。