2013年春のアニメソングを振り返る(後編)ーー世界を震撼させた空耳ソング「紅蓮の弓矢」

2013年4月から2013年6月までのアニメソングをオタクな妻との対談形式で振り返る記事の後編

<前編はこちら>

 

世界を震撼させた空耳ソング「紅蓮の弓矢」

 私:後半は、2013年春アニメの主にキャラソン以外について語りたいと思うのですが、春のアニソンが世の中に与えたインパクトを客観的に評価するならば、間違いなく一番に上がるのは、「進撃の巨人」の主題歌「紅蓮の弓矢」ですよね。

  

 

妻:そうなんだろうね。私はあのアニメ、怖すぎて見れなかったけど。

 

私:それは人生の損失だと思いますよ。まあ結構残酷なので、2歳の娘には見せないように気をつけていたんですが、私が気づかぬうちに、後ろからそっと見ていたみたいですね。

 

妻:ちょっとトラウマになっているみたいだよ。夜泣いて起きるから、どんな夢だったのか聞くと「怪物に食べられる」って言ってるもん。

 

私:それは確実に巨人に襲われていますね。反省しないと……。

進撃の巨人に話を戻すと、「壁の向こうから襲いかかる巨人に立ち向かう」という物語設定が「引きこもり願望のオタクに押し寄せる日常生活」から、「領土問題やTPPをせまられる現代日本」まで、様々な人々に多様な現実を投影され、世代や国境、オタクと一般人の壁を踏み越えて大ヒットしました。

 

妻:何か外からの圧力に対抗する話なら何でも投影可能だもんね。

主題歌の「紅蓮の弓矢」も、ニコニコ動画で多様な替え歌が投稿されたのが話題になったよね。

 

私:こちらも「ブラックな労働環境に立ち向かう社畜」から、「重課金ネトゲに立ち向かうネトゲ廃人」まで、何でもありな感じでしたよね。

あれはこの曲の何を言っているのかわからない歌詞がよかったんでしょうね。

 

妻:曖昧な歌詞が多様な解釈を産んで、やはり色々な現実を投影されたというのは、このアニメ自体がウケたのと同じ構造なんだろうね。

 

私:確かにそういう意味では、作品とマッチした主題歌でしたよね。何かに立ち向かうということにどこまでも熱く、そして、多様な解釈や投影を呼ぶ曖昧さというのが、この作品と主題歌の素晴らしさですね。作品の世界的なヒットにあわせて、まさに世界を震撼させた空耳ソングだったと言えると思います。

何だかよくわからないんだけども景気が回復基調にあるという現在の日本のアベノミクス的な状況ともリンクするようで、優れて現代的な作品だったというべきなんでしょうね。

 

妻:もっともらしくこじつけてみたね。まあ、そういう多様な解釈を可能にするところがこの歌の懐の広さよね。

エンディングテーマの日笠陽子の歌う「美しき残酷な世界」も良かったよね。

 

私:声優・日笠陽子さんの歌手としてのデビューシングルらしいですね。歌、上手いですよね。

 

妻:なんといっても一つの時代を築いた「けいおん」の澪ちゃんだからね。今後も色々と活躍してくれそうよね。

 

私:本編の呆然となる展開のエンディング・テーマとしてハマっていましたね。まさに「美しき残酷な世界」でしたからね。

 

トラウマになる思春期アニメ「惡の華

そして今期の残酷な作品といえば、もう一つ忘れてはいけないのが「惡の華」ですよ。

 

妻:あれも私は怖すぎて見れなかったんだけど。

 

私:それも人生の損失ですね。思春期のこんなことがあったら嫌だという感情を凝縮したようなすばらしい作品ですよ。

これも、なんだか描写がやけに恐ろしいところがあるので、2歳の娘には見せないように気をつけていたんですが、どうやら椅子の後ろで隠れて見ていたようなんですよね。

 

妻:そうだよ。「まっくろくろすけ怖い」って泣きながら逃げ帰ってきたもん。

 

私:「まっくろくろすけ」じゃなくて、「惡の華」なんですけどね……。

一話のラストで一つ目で真っ黒な「惡の華」が咲いて、「花 -a last flower-」が流れるエンディングの気持ち悪さはすごかったですからね。

 

妻:今期のサブカル枠って感じよね。

 

私:作曲者にASA-CHANGの名前をみた時にも驚きましたけどね。スカパラとの落差も含めて…。

この作品はオープニングテーマ、宇宙人の「惡の華」も素晴らしかったんですよ。

 

妻:なんだか昭和歌謡なあの作品よね

 

私:そうなんですよ。メドレー形式で多くのメロディが一曲につめこまれているんですが、それがことごとく、ねちっこくて泥臭い感じの昭和歌謡であり、そして驚くほどクオリティが高いんですよね。

 

妻:歌詞もなんだかすごかったよね。

 

私:「クソムシ ゴミクズ こんにちは 私が認めた変態さん 最低最高ドブの底 見せてあげる」ですからね。

これも「惡の華」の作品世界を余すなく表現してみせた名作ですね。

今期の講談社はすごかったですね。

 

妻:そういえば「進撃の巨人」「惡の華」から「むろみさん」まで講談社よね。

 

私:やはり残酷さと人間の劣情について描かせると、講談社の右に出るものはないですね。

これこそが世界に誇るべき日本文化ですよ。

 

妻:それが世界に誇る部分なのかな…。

 

大河内一楼虚淵玄のロボットアニメ対決

妻:話は変わるけど、春はロボットアニメもすごかったね。

 

私:まさか、「コードギアス」の脚本家である大河内一楼と、「まどか☆マギカ」の脚本家である虚淵玄によるロボットアニメ対決を見るときがくるとはね。

 

妻:「革命機ヴァルヴレイヴ」と「翠星のガルガンティア」よね。サンライズProduction I.Gのロボットアニメ対決でもあったわけだけど、今期はこの2作品があっただけでもすごいというべきだよね。

 

私:名作が多すぎるんですよね。まずは「革命機ヴァルヴレイヴ」から話をすると、魔法使いロボットアニメ「コードギアス」の次く本作は、吸血鬼ものロボットアニメでしたね。

 

妻:脚本に勢いがありすぎるよね。些細な矛盾とかアラは脚本の勢いで乗り越える感じだもんね。

 

私:面白ければいいって感じですよね。あれは、昼メロとかに通じるものがありますね。

アニソン的には、まずはオープニングの「Preserved Roses」は水樹奈々とTMレボリューションのデュエット曲というのが話題になりました。

 

妻:現代アニソンを代表する二大ボーカリストの共演だったよね。

 

私:どちらも現代アニソンのそれぞれの頂点にいながら、一緒に歌うというのが想像しにくかった二人なので驚きましたね。

 

妻:この二人がハモる時がくるとはね。

でも、私がこの作品ですごいと思った曲は、なんといってもangelaの歌う「僕じゃない」だね。

僕じゃない

僕じゃない

 

私:あの耳に残って離れない中毒性はすごかったですね。

 

妻:このネガティブさを売りにした中毒ソングは、石川智晶「アンインストール」以来の衝撃だったね。

 

私:確かにそういう意味では、「アンインストール」に通じる、ネガティブワードを壮大に歌い上げる名曲ですよね。なんといっても「僕じゃない」ですからね。

 

妻:こんなに高らかに自分に責任のないことを訴える曲もすごいよね。

 

私:これは「紅蓮の弓矢」が無駄に全人類の責任を背負って戦おうとするのと対極を成す意味でも、今期の名曲だったと思いますね。

 

妻:この曲が第10話のエンディングで流れなかったのは残念だったね。

 

私:吸血鬼化した主人公が準ヒロインとの間で過ちをおかしたあのシーンですよね。

あれこそ歌詞がいうところの「僕の体なのに舵を取れない」ですよね。

 

妻:この1クール目の3ヶ月はあのシーンのためにあると言っても過言ではないと思うよ。あそこは劇中から「僕じゃない」を流して、二番からスタッフロールに入るような流れでよかったと思う。

 

私:完全に最終回の演出じゃないですか。でもそれだったら、アニソン的には歴史に残る神回になったと思いますね。

 

妻:まあ、2ndエンディングのELISAの「そばにいるよ」も聴けば聴くほどいい曲に思えるスルメ曲だったんだけどね。

そばにいるよ

そばにいるよ

 

私:そうですね。

では、もう一つの虚淵さんのロボットアニメ「翠星ガルガンティア」ですが、この爽やかな展開には驚きましたね。

 

妻:途中までずっと残酷な悲劇がいつ訪れるのかとビクビクしていたもんね。

 

私:登場人物の半分ぐらいは死ぬんだろうなと思っていましたよね。

 

妻:私はいつチェインバーこと杉田智和がいつ裏切ってラスボスになるのか期待していたんだけどね。

 

私:期待を別の方向で裏切って、最後に美味しいところをすべてを持って行きましたよね。チェインバーかっこよすぎました。

 

妻:そんな爽やかすぎる虚淵アニメを彩ったのが、茅原実里の名曲「この世界は僕らを待っていた」だったよね。

 

私:茅原実里の最高傑作ですよね。

 

妻:エンディングのChouChoさんの「空とキミのメッセージ」も良かったよね。

空とキミのメッセージ

空とキミのメッセージ

 

私:どちらもいい曲でしたよね。こんな爽やかな虚淵アニメの世界が僕らを待っていたとは。

 

語りきれない春アニメ曲

私:最後に、その他の今期のアニソンを振り返っておきたいですが、何か印象的なものはありましたか?

 

妻:アラタカンガタリの主題歌でスフィアの「GENESIS ARIA」だね。Karafinaを意識したという曲調がかっこよかった。

GENESIS ARIA

GENESIS ARIA

  • スフィア
  • Anime
  • ¥250

 

私:あれはElements Garden菊田大介さんの作曲ですよね。イントロがかっこいいアップテンポな菊田さん的ロックと世界と梶浦由記の世界が交差した名曲でしたね。

 

妻:あとキャラソンで忘れてはいけないのが「絶園のテンペスト」のキャラソン内山昂輝豊永利行の歌う「星の船」だね。

 

私:何なんですかね、あのクオリティの高さは。昭和歌謡な男性ボーカルの掛け合いが、声優さんの声の良さを引き立てるんですよね。

 

妻:前クールに発表された「嵐のラプソディ」に続いて、かっこ良すぎたね。

 

私:私はノイタミナ版「刀語」の主題歌でsupercellの「拍手喝采歌合」で、ryoさんの和のテイストのロックにしびれましたね。

拍手喝采歌合

拍手喝采歌合

 

妻:ボカロ作曲家出身でいうと今期はkzさんの活躍もあったもんね。

 

私:そうですね。「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」については先ほど触れましたが、kzさんはこの春「DEVIL SURVIVOR2 the ANIMATION」にも楽曲を提供していて、主題歌の「Take Your Way」と話の終盤で使われていた挿入歌「Each and All」がかなりの名曲でしたよ。

 

妻:そのほか、GRANRODEOの「偏愛の輪舞曲」や、fripSideの「sister's noise」から神谷浩史入野自由のデュエット「REASON」まで、本当に今期は挙げるとキリがない。

 

私:春のレベルの高さは異常でしたよね。まさにアニソン界のアベノミクス

 

妻:今期のアニメとアニソンのレベルの高さについて、自民党政権が影響を与えたとは思えないけどね。

 

私:まあ、そうでしょうけど、本当に政治主導でこの春アニメとアニソンのクオリティが持続的に実現できるなら、日本の経済も立て直せるんじゃないかと思わせるような3ヶ月でしたよ。

 

妻:政府のクールジャパン戦略が正しい方向に向かうように願うばかりだね。

 

私:とりあえず児童ポルノ規制法についてはこの春アニメのすばらしさを見てから議論してほしいところです。