キャラソンに溢れる昭和歌謡の世界・「木枯らしセンティメント」から「潮騒のメモリー」までーー2013年後半のアニソンを振り返る(後編)

2013年7月から12月までのアニメソングをオタクな妻との対談形式で振り返る記事の後編です。

(⇒前篇はこちら

 

鬼物語にキャラソンがなかった理由

私:昨年の7月から12月まで2クールにわたって放送された西尾維新の<物語シリーズ>セカンドシーズンについて語りたいと思います。

 

妻:この作品は、毎回異なる女の子キャラをメインに据えた複数の物語からなっていて、それぞれのキャラクターについて神前暁さんが作曲したキャラソンがオープニングテーマとして使われているのよね。

 

私:キャラソンの名手である神前さんの技が遺憾なく発揮されるキャラソンファン垂涎の作品ですよね。

 

妻:そもそも「神前さん=キャラソンの名手」という評価が確立されたのがこの<物語シリーズ>だろうからね。

 

私:セカンドシーズンでは「鬼物語」がアニメ化されるということで、ついに坂本真綾の演じる吸血鬼である「忍ちゃん」のキャラソンが来るんではないかということで、夫婦で大いに盛り上がっていました。

 

妻:二年ぐらい前から同じ話をしている気がするけど、坂本真綾って歌手としても活躍している声優だけど基本的にキャラソンは歌わないので今回はどうなるのかということと、現代アニメ音楽の巨匠・菅野よう子のアニソンのイメージが強い坂本真綾に対して神前さんがどんな曲を書いてくるのかという2点で、アニソンファンとしては注目を続けてきたのよね。

 

私:そうなんですよ。しかし、鬼物語では、ついに坂本真綾ソングは流れなかったんですよね……。

 

妻:まさかオープニングテーマなしとはね…。あれが昨年の秋、最も落胆した出来事だね。やっぱり坂本真綾はキャラソンを歌わないのかと。

 

私:しかし、私はあれについては、別の見方をしているんですよ。

 

妻:というと?

 

私:完全にネタバレになるんですが、鬼物語って、吸血鬼の忍ちゃん=坂本真綾の物語と見せかけながら、結局最後は別の女の子、八九寺真宵の物語なんですよね。そのために坂本真綾に歌わせるのを、敢えて避けたのではないかと思うんですよ。

 

妻:まあ、それが作品的なトリックでもあるのよね。

坂本真綾がキャラソンを歌わないということすら、そのトリックをカモフラージュするために活用したというべきかもしれないね。

 

私:そうですね。きっと製作陣は、坂本真綾の主題歌は「傷物語」の劇場版でと決めているんじゃないかと信じています。

 

妻:そもそも、その「傷物語」が制作発表だけされた後、ずいぶんと音沙汰がないのだけどね。

 

私:私は神前さん作曲の坂本真綾キャラソンさえ聴けるのであれば、何年でも待ち続けますよ。

 

完成度が高過ぎたキャラソン木枯らしセンティメント

私:さて、では本題の「木枯らしセンティメント」なのですが、これは「物語シリーズセカンドシーズン」の最後の話にあたる「恋物語」の主題歌でした。

まさか、こんなに昭和テイストのデュエットソングが来るとは驚きましたね。

 

妻:今までの神前さん作品にない曲調よね。アイドルソングから演歌まで多様なキャラソンを楽曲を手がけてきた神前さんだけど、そんな引き出しを出してくるとは。

 

私:また、三木眞一郎さんの歌がうまいんですよね。斎藤千和さんのキャラを反映した淡々とした歌い方と、三木眞一郎の胡散臭すぎるアンニュイな歌い方が独特の世界を作り上げますよね。

 

妻:まさかこの化物語シリーズ初めてのデュエットソングを、主役の神谷浩史ではなくて、三木眞一郎が歌うことになるとはね。

新房監督の演出や絵柄にも昭和があふれている感じでよかったよね。

 

私:恋物語の2話目でこの曲が流すというのも憎い演出でした。

1話目で「恋物語」という割には、このハーレムものでもある作品の主人公が出てこず、ヒロイン=斉藤千和さんと彼女を過去に裏切った詐欺師・貝木泥舟三木眞一郎を中心に物語が進行するに当惑するんですよね。

この話はなんなんだと思った2話目の冒頭でこの曲が流れて、「恋物語」ってこの二人の話だったんだということを、色んな衝撃とともに知るわけです。

 

妻:あれも鬼物語と同じ、ファンの心理を逆手にとったトリックみたいなものよね。

しかし、物語が進むと、意外と骨太なラブストーリーになっていくところが西尾維新のすごさよね。

 

私:そうなんですよ。それに伴って、最初ネタだとしか思えなかったこの歌の歌詞が、ぐっと切ないラブソングに変わっていくんですよ。

 

妻:あの作詞はmeg rockさんの最高傑作と言っていいと思うね。

 

私:過去の恋愛を「勘違い 一時の気の迷い ありふれた 感傷ごっこ」と切り捨てるように言いながら、終わったはず恋を木枯らしが呼び起こすんですよね。

 

妻:「感傷ごっこ」を「センチメンタリズム」と読ませるあたりのセンスの古さも最高よね。

 

私:まさに楽曲と声優さん歌声、演出と物語が一体になって、最高のパフォーマンスを示した作品になりましたね。

 

妻:これぞキャラソンという傑作だったね。

 

2013年を彩った昭和テイストな名曲たち

私:「木枯らしセンティメント」のみならず、去年の2013年はやけに昭和テイストの楽曲が多かったように思います。

 

妻:そうだね。昭和歌謡っぽい曲っていうのはキャラソンではたまに見かけるジャンルではあったけれど、昨年は特に優れた曲が多い気がしたね。

 

私:まずは過去の記事でも何度か触れた、アニメ「絶園のテンペスト」のDVD特典として収録されて昨年順次リリースされた内山昂輝豊永利行のデュエット曲「嵐のラプソディ」と「星の船」、「ポジティカ」の3曲ですね。

 

妻:絶園のテンペストのこの一連の男性二人のデュエットキャラソンは粒ぞろいなのよね。

また、各楽曲が違ったテイストを持っていて、それぞれ別のアプローチによる昭和歌謡になっているのも素晴らしい。

 

私:昭和っぽさを現代風にアレンジして男性のデュエットにするというのは、ジャニーズが前に昭和歌謡をイメージした楽曲で流行らせた「硝子の少年」とか「青春アミーゴ」なんかと同じ手法ですよね。

 

妻:二人の男性ボーカルの掛け合いがキャラクターの対比を際立たせるので、キャラソンとしても成功しているのよね。

しかし、これらの作品が本当にDVDの購入特典としてしか存在せず、世に余り知られていないのは残念よね。

 

私:そうですね。もっと評価されるべき楽曲達ですよね。カラオケですごく歌いたくなる曲なんですが、入りそうにないですからね……。

 

妻:それから、アニメ「君のいる町」のエンディングテーマで細谷佳正さんの歌う「君のいる町」も良かったね。

君のいる町

君のいる町

 

私:あれも昭和を感じる名曲でしたね。

そして、昭和というキーワードで昨年の作品を語る上で外せないのは、秋に始まったアニメ「キルラキル」ですね。

 

妻:「ど根性ガエル」や昭和の熱血転校生マンガを元ネタにした、まさに昭和感溢れるアニメよね。

 

私:昨年の秋は、大河内一楼の「ヴァルヴレイヴ」と中島かずきキルラキル」というノリと勢いがすばらしい二人の脚本家による作品を揃って楽しめたという意味ですごい季節でした。

 

妻:「コードギアス」の大河内一楼と、「グレンラガン」の中嶋かずきとは、確かに濃い二人よね。

 

私:偶然だとは思いますが、ともに「吸血鬼モノ」という共通の設定を持つんですよね。

革命機ヴァルヴレイヴ」において大河内一楼がロボットアニメに持ち込んだのが「吸血鬼」と「Twitter」だったのに対して、「キルラキル」で中嶋かずきが変身格闘ものアニメに持ち込んだのが「吸血鬼」と「ど根性ガエル」だというのも興味深い点でした。

 

妻:「Twitter」と「ど根性ガエル」。現代と昭和の対比というわけね。

 

私:そうです。そんな昭和の詰まった「キルラキル」なんですが、ツッコむ暇を与えないほど濃密に凝縮された昭和テイストでテンションが高すぎる名作でしたね。

 

妻:私はあのアニメ、正直、何が面白いのかさっぱりわからなかったね……。

 

私:ガンダムSEEDからアニメにハマったような人には、あの昭和アニメのアツい展開の良さはわかならいんですよ。あれこそ現代の萌え全盛の軟弱なアニメに対する昭和的なアンチテーゼだと思いますね。

 

妻:まあ、昭和アニメの懐古趣味にハマる30代以上のアニメファン向けアニメっていうのも、マーケテイング的にありだったってことじゃない?

 

私:ドライな意見ですね。まあ、あのアニメについてはまだ2クール目が放送中なので、その評価は完結してからにしたいところです。

さて、アニソンに話を戻すと、そんな「キルラキル」のオープニングテーマは藍井エイルさんの歌う「シリウス」でした。

シリウス

シリウス

 

妻:あれは昭和というよりは、10年ぐらい前のアニメのテイストよね。同じ今石洋之監督・中島ひろき脚本の「グレンラガン」の主題歌「空色デイズ」って感じよね。

 

私:中川翔子神曲ですよね。あれは、アツいアニソンのお手本のような作品ですからね。

昭和というならば、エンディングテーマの沢井美空さんの歌う「ごめんね、いいコじゃいられない。」ですよね。


沢井 美空 『ごめんね、いいコじゃいられない。』 - YouTube

 

妻:あのエンディングテーマはスケバン刑事へのオマージュということで話題になっていたよね。

 

私:あれって、私はキャラソンだと思っていたんですが、沢井美空さんという20歳のシンガーソングライターの作詞・作曲の作品だったんですね。

20歳の作品とは思えないですね。

 

妻:作品を理解した、いい仕事するよね。

 

私:昭和歌謡的な楽曲って、きっと音楽的には過去にやり尽くされている感じなんでしょうけど、こうしてパロディ的に引用されて、作品やキャラクターの文脈の中でアニソンやキャラソンとして活用されることで、別の輝きを見せると思いますね。

 

妻:それって、現代のJ-POPについていけなくなった我々が、アニソンの中に懐メロを求めているだけなんじゃないの?

 

私:手厳しい意見ですね。確かに、アニソンに往年のJ-POPや歌謡曲の輝きを見ようとしているというのは、少なからずありますよね……。

それだけではないということを言いたいのですが、それにはもう少し、昨年の昭和な楽曲を見てみたいと思います。

 

恋するフォーチュンクッキー」はすばらしい曲だった

私:さて、2013年のアニソンにおける昭和な楽曲を見てきたわけですが、アニソン以外でも昭和というなら避けて通れないのは、まず「恋するフォーチュンクッキー」ですね。


【MV】恋するフォーチュンクッキー / AKB48[公式] - YouTube

 

妻:AKBについては以前、アニメ「AKB0048」で批判していた気がするけど、「恋するフォーチュンクッキー」は良かったのね。

 

私:AKBの楽曲って、私はこれまで全く受け付けなかったんですが、この曲だけは買いましたからね。

 

妻:あの曲にあわせて踊った動画をYoutubeに挙げるのも話題になっていたよね。私の職場でも踊ってたし。

 

私:あのネットを活かして絶妙に一般層を巻き込んだ盛り上がりが素晴らしかったですよね。

あれこそ現代のヒット曲のあるべき姿だと思いましたよ。

 

妻:「ハレ晴レユカイ」以来、ヒット曲を踊るって動画をアップするっているのはネットのアニソンファンでは結構見かける盛り上がり方だけど、AKBでそれを実現して、一般的なものにしてみせたのがこの楽曲のすごさよね。

 

私:そうですね。現代のアイドルのヒット曲として、あるべき盛り上がり方の理想を示してみせた意味ですごい楽曲だったですよ。

 

妻:楽曲的には、70年台とか80年台あたりのヒット曲のイメージよね。

 

私:あれがいろんな世代にウケた理由でもあるんでしょうね。

現代って、趣味の多様化とか、インターネットによるテレビの衰退とか、万人に受ける大衆文化みたいなものが力を持ちにくくなっている中で、あの盛り上がりを示して見せたというのが、昭和というものの凄さかなあと思いますね。

 

2013年のキャラソン最大のヒット作「潮騒のメモリー

私:また昨年の昭和テイスト楽曲の中で、キャラソンファンとして外せないのが、ドラマ「あまちゃん」の「潮騒のメモリー」ですね。あれが世間一般で見ると、昨年最もヒットしたキャラソンですよね。

潮騒のメモリー

潮騒のメモリー

 

妻:あれをキャラソンと呼ぶなら、まあ、その通りだろうけど。

 

私:いや、あれは完全にキャラソンの文脈で語るべき作品ですよ。

私はドラマ「あまちゃん」の音楽的に偉大な功績は「キャラソンを朝ドラに持ち込んだこと」だと思っています。

 

妻:まあ、「潮騒のメモリー」を始め、「暦の上ではディセンバー」や「地元に帰ろう」もまあ、キャラソンというならキャラソンだよね。

 

私:まず大友良英さん作曲の楽曲が素晴らしかったですね。

 

妻:まさに、昭和のアイドルソングって感じの曲だったけど、大友良英さんってけっこうマニアックな音楽をやっていた人なのよね?

 

私:ノイズ系と呼ばれる音楽で世界的に有名だった人らしいですが、キャッチーな曲も難なくこなしていましたよね。

往年のアイドルソングらしいたっぷりしたバラードに始まって、サビでぐっとスピード感を増して盛り上がっていく構成は素晴らしかったです。

 

妻:宮藤官九郎の歌詞も小ネタを織り交ぜた感じで絶妙なのよね。

 

私:曲も歌詞も完全に往年のアイドルソングをネタしたものなんですが、実はこれって、ネタ元のアイドルソングよりもいい曲なんじゃないかっていうのがすごいところなんですよね。

 

妻:あんなにいい曲は、薬師丸ひろ子小泉今日子の曲の中にもそうそうないよね。

パロディでありながら、元ネタよりいい曲だっていうのは、優れたキャラソンの条件よね。

 

私:この大友良英宮藤官九郎のコンビをドラマだけのものにしておくのは惜しいですね。

 

妻:確かにアニメ界・アニソン界に欲しい人材よね。

 

私:そして当然の前提ではあるんですが歌っている人がすごいんですよね。「潮騒のメモリー」は、小泉今日子薬師丸ひろ子を往年のアイドル役に起用して、作中のアイドル曲を歌わせるという形でのキャラソンですからね。

 

妻:朝ドラならではの、かつてない豪華な歌い手によるキャラソンよね。歌い手の豪華さという意味でもキャラソンの歴史に残るべき楽曲よね。

 

私:そして、ストーリーにおけるあのキャラソンの扱いがまたうまいんですよ。

物語の終盤で、薬師丸ひろ子が「潮騒のメモリー」を歌う場面なんて、私はあれを見て出勤前に号泣していましたからね。

 

妻:それは素直にキモいけどね……。

 

私:いや、あれは泣きますって。

あの場面に繋がる様々なストーリーやどう解決をつけるのかと思っていた伏線を、あの歌で全て解決してみせるというシナリオは素晴らしかったです。

あれこそ作中でキャラが歌うという、キャラソンの特性を完璧に活かした素晴らしい演出でしたね。

 

妻:まあ、あれだけヒットして、紅白歌合戦を盛り上げ、キャラソンというものの素晴らしさを世に示したという意味で「潮騒のメモリー」はすごい曲だったというべきなんだろうね。

 

2013年における「昭和」の意義とは

私:では最後に、2013年の楽曲に溢れた「昭和」の意義を考えてみたいですが、この時代に「昭和」ってどうなんでしょうね?

 

妻:やっぱり我々と同世代ぐらいの人が多くなってきた世のクリエイターといわれる人々が、自らの懐古趣味にハマっているという感じはあるんだけどね。

 

私:それを言ってはおしまいなんですが…… 

 

妻:まあ、昭和っぽさというのは、万人受けする王道っていう面はあるね。

 

私:確かに昭和は強いですね。バブルは崩壊していなくて、J-POPは全盛期で、テレビを始めとした大衆文化っていうものすごい力を持っていた時代ですよね。

 

妻:色んな意味で荒削りだし、馬鹿っぽさの象徴でもあるのよね。

 

私:「アベノミクス」といって景気回復への期待を持った時代の雰囲気を、そういった昭和という時代に対して、意識的にか無意識的にか投影している面はあるんでしょうかね。

 

妻:東日本大震災原発事故がもたらした、ここ数年の暗い時代への反動という感じはあるね。

 

私:そうですね。奇しくも「潮騒のメモリー」が東日本大震災を扱った「あまちゃん」という作品において、復興の文脈に位置づけれれているのはとても象徴的な気がしますね。

 

妻:まあ無理やり世相にあてはめてもっともらしく言わなくても、キャラソンファンとしては名曲が生まれればそれでいいんだけどね。「昭和」でさえあれば良いというものでもないし。

 

私:まあ、そうですね。昭和というのは趣向の一つでしかなくて、それがキャラソンだとか、AKBだとか、朝ドラっていう現代文化の新たな文脈の中で、今の時代にあった名作を生み出していくダイナミズムの源泉になりうる一要素っていうことなんでしょうね。